今回は使いやすさと安全性のトレードオフについての事例を紹介します。
 下の写真は、私の家の給湯設備のコントローラーです。左は台所にあるもの、右は浴室にあるものです。これらは連動しており、例えば、台所で電源を入れると、浴室でも電源が入りますし、浴室で湯温を変えると、台所のお湯の温度も変わります。

台所のコントローラー 浴室のコントローラー
浴室のコントローラー
台所のコントローラー

ここからが問題です。
前述の通り、台所と浴室で湯音調節が連動していることが、安全上は大きな問題になります。もし、だれかがシャワーを浴びているときに、台所で湯温を上げたらどうなるでしょうか?場合によってはやけどもしかねません。
そこで、入浴中に台所側で勝手に温度を変えられないよう、浴室のコントローラーには「設定優先」というスイッチが用意されています。これが「入」になっていると、浴室では湯温調節が出来ますが、台所では出来ません。逆に「切」だと台所でだけ湯温調節が出来ます。つまり湯温調節は常にどちらか一方でしか出来ないようになっているのです。

確かに安全になりました。これで台所のコントローラーから勝手に温度を変えられることはなくなります。しかし、ユーザビリティ上の問題が出てきました。
浴室の「設定優先」を「入」にしたままお風呂から上がってしまうと、次に台所で温度を変えようと思ったら、一旦浴室に行って「設定優先」を「切」にしなければなりません。もしくは浴室で温度を変えてしまうかです。
更に具合の悪いことに台所側のコントローラーには「設定優先」がどうなっているかの表示がないのです。湯温調節ボタンを押して、あれ?動かないな、と思っても、それが「設定優先」の問題なのか、きちんと押せていないだけなのか、区別がつけられません。

お風呂から上がるときには「設定優先」を「切」にすれば良いのだ、ということでこのような設計になっているのでしょうけど、別段風呂から上がるのに必要な操作ではないですから、実際には必ずといっていいほど「切」り忘れます。
結果として、せっかく両方にコントローラーが付いているにも関わらず、台所での湯温調節は非常に不便になっています。

これは極端な例ですが、このようなトレードオフは様々なところで見ることが出来ます。例えばコンピュータや携帯電話で何かを削除する時に出てくる「YES/NO」のダイアログも同様の例だといえるでしょう。