その日、仕事帰りに同僚と一杯やったあと電車に揺られていたのですが、ついついお酒が進んだこともあり、電車を降りると一目散に駅のトイレに駆け込みました。
用を足し、手を洗おうと洗面所に立って、ほどよく染まった自分の赤ら顔を眺めたとき、おやっと思いました。
妙に、隣の洗面台にいる人の存在感が薄いのです。
そのトイレに洗面台は2台あり、私が片方の前に立ったとき、隣の洗面台には人がいました。それなのに鏡越しに目が合うこともなければ、視線を感じることもありません。不思議に思い、本来であれば隣の人が映っているであろう辺りを見ると、そこだけ鏡が曇りガラス状になっています。
鏡の一部分が曇りガラス状になっている |
これが存在感を和らげるトリックでした。鏡の一部を曇りガラス状にすることで映り込みを抑えるので、2人がそれぞれの洗面台の前に同時に立っても、鏡を通して目に入るのは自身の姿だけなのです。
駅のトイレは公共の場とはいえ、鏡に向かうその瞬間はプライベートな時間とも言えます。他人と必要以上に目を合わせたくない、けれど隣に人がいるとなにかと気になったり、意識するつもりはなくてもついチラっと目をやりたくなるものです。
「うっかり目が合って思わず目を逸らす」というバツの悪い思いをせずにすむことは、実はとてもありがたいことかもしれません。
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