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先人の計算


用語解説

先人の計算(Pre-computation)



 E.Hutchinsは、道具の本質は先人の計算(Pre-computation)であると主張しています。つまりあるタスクのより優れたやり方を誰かが見付け、それを他の人が利用できる形に表現したものである、というのです。

 身近な例に炊飯器の内釜の目盛りがあります。通常、ご飯を炊くにはお米の量に見合っただけの水を入れる必要があります。これを計算で求めて、計量カップでその分水を量って入れるのは非常に面倒です。そこで炊飯器メーカーがあらかじめ、内釜の底面積などを計算に入れて、炊きたいご飯の合数ごとに目盛りを降ってあるのです。このことによって、ユーザはいちいち計算したりカップで水を計量したりしなくてよくなりました。そして代わりに与えられるタスクは、水を目盛の位置まで入れるというものです。

 ユーザの認知的活動から見ると、数値計算およびカップの目盛に水をあわせるという視覚的タスクが、単なる内釜の目盛に水を合わせるという(やはり視覚的な)タスクに置き換えられたといえます。計算はどこに行ったかといえば、メーカーの設計者がすべてのユーザのかわりに予め計算を行い、その結果を目盛という形でタスクから物理的に分離独立させたと考えることができます。

 代数幾何学で言えば、一定の証明過程は定理として分離させ、他の人が再利用できることにあたります。

 このように先人の計算は、タスクの質を別のものに置き換えることであり、置き換えられる新しいタスクの質が、元のそれよりもやりやすかった場合に道具として広く定着する、と考えることができます。ユーザの負担を軽減するインターフェイスの設計の手段として、ユーザの認知プロセスの中で常に一定で切り離せる部分を見つけ出して分離、自動化を目指すというアプローチも考えられるのではないでしょうか。

(古田)

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